子どもの認知処理様式に合った国語の教え方の基本。『長所活用型指導で子どもが変わる part 2―認知処理様式を生かす国語・算数・作業学習の指導方略―』

『長所活用型指導で子どもが変わる』は、通常学級で学習につまずきを示したり、通級による指導を受けている子どもを念頭に、子どもの得意な認知処理様式を活かした学習指導の方法を紹介してくれている本。

従来は、子どもの弱い能力を改善したりレベルアップすることを目的とした「短所改善型指導」が主流でしたが、学習障害をはじめとする発達障害のある子どもの場合には、「短所改善型指導」だけでは効果があがらず、むしろ逆効果になる場合さえあることが明らかになってきています。

そのため本書『長所活用型指導で子どもが変わる part 2―認知処理様式を生かす国語・算数・作業学習の指導方略―』では、カウフマン夫妻が提唱する「継次処理」と「同時処理」という2つの認知様式を取り上げ、子どもの得意な認知様式を活用して学習のつまずきを改善することを目的とした『長所活用型指導』が紹介されています。

およそ7~9歳(小学校1~3年生)までの認知発達レベルに相当する子どものうち、とくに国語・算数・日常生活において何らかのつまずきを示す子どもの指導方略が示されています。

本書で想定されている対象は7~9歳(小1~3)ですが、就学前のお子さんがことばや文字を習得していく際にも、得意な認知処理スタイルに合った指導の方法を用いることで、よりよい学習効果が得られるのではないかと思います。

そこで今回の記事では、本著の中から、認知処理様式を生かした国語の指導の基本についてご紹介したいと思います。


長所活用型指導で子どもが変わる (part 2)

認知処理様式を生かす「長所活用型指導」

「認知機能」とは、見たり聞いたりしたものを理解したり記憶するといった、脳のさまざまな機能のこと。

すなわち、

外界からの情報をインプット(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚・筋肉運動感覚・固有感覚などの感覚器)

脳の中枢での処理(知覚・記憶・思考・理解・判断)

アウトプット(言う・書く・行う)

これらの一連の活動プロセスのことを指します。

そして、ものごとの認知のしかた(わかり方)には、「継次処理」スタイルと「同時処理」スタイルの2つのパターンがあり、どちらのスタイルが得意かによって、効果的な学習の方法が変わってきます。

通常、多少の強弱はあっても2つの認知処理スタイルがバランスよく発達するため、どちらの認知処理スタイルで教えられても理解できないことはありません。

しかしながら、学習につまずきのある子どもの多くは得意・不得意が極端なため、不得意な認知処理スタイルで教わっても理解がむずかしくなってしまいます。

その場合、学習しても効果が上がらないだけでなく、その課題に対する苦手意識が強くなって意欲の低下を引き起こし、学習すればするほどかえって逆効果になってしまう危険性も。

そこで、お子さんが勉強につまずいている場合には、お子さんの得意な認知処理スタイルに合った学習方法を用いることが大切になります。

りんこ
以下で「継次処理」スタイルと「同時処理」スタイルについて、簡単にまとめてみます。

①継次処理スタイル

「継次的」とは、時間的な順序にしたがってものごとがなされること。
すなわち、一つ一つの情報を時間的な順序で処理していくのが「継次処理スタイル」の特徴です。

「継次処理スタイル」の特徴

・情報を一つ一つ順番に理解し、それらをつないで全体を捉えることが得意(部分→全体へ

聴覚からの情報収集・理解が得意

そのため、学習するときには始めから順序だてて行うことを好みます。

②同時処理スタイル

複数の情報を、その関連性に着目して全体的に処理するのが「同時処理スタイル」。
継次処理が得意な子どもとは反対に、「全体から部分へ」という方向を踏まえます。

「同時処理スタイル」の特徴

・物事の全体像をイメージし、情報と情報の関係を把握していくことが得意(全体→部分へ

視覚からの情報収集・理解が得意

認知処理様式を生かした国語の指導

認知処理能力の弱点により起こる国語のつまずき

学習指導要領の中の「言語事項」における、発音・発声、文字、表記、書写などに関するつまずきは、継次処理が同時処理に比べて極端に弱い場合と、同時処理が継次処理に比べて極端に弱い場合とに分けられます。

りんこ
たとえば継次処理が極端に弱いと、音読・ひらがなの読み書き・説明文の理解はむずかしい、などが起こります。
  継次処理に強く同時処理に弱い子 同時処理に強く継次処理に弱い子
言語の習得 視覚性言語(読む・書く)の習得が困難 聴覚性言語(聞く・話す)の習得が困難
音・文字レベル ・文字の読みでは、あまり困難が見えないことが多い。
書字がへたな場合が多い。
・概して音韻弁別が弱く発音に問題を持つ
・特殊音節の習得も遅い。
単語レベル ・文字は読めるが、単語を読めても意味がわからないことがある。 ・単語は読めても、1文字1文字に分解すると読めない
文レベル ・文を読むことはうまくできるが、文を書くなどはできないことが多い。 ・文の意味は把握できるが、読むことは苦手で、特に音読することが難しい。
文章レベル ・文章を読むことはできるが、意味を把握することができない。特に物語文の理解は悪く、反対に説明文ならば理解できる場合がある。 ・意味の把握はできる。物語文において感情的な流れを理解することはできるが、説明文などの理解は難しい

認知処理様式を生かす国語の指導方略

国語の学習内容は、4つの領域(聞く・話す・読む・書く)、また4つのレベル(音・文字―単語―文―文章)に分けられます。

継次処理タイプか同時処理タイプかによって、これらをどのような順序で学ぶのが有効かが変わってきます。

<聴覚性言語>(聞く・話す)

音・文字 単語 文章
音を正確に聞く 単語音を正確に聞く 2・3語文を正確に聞く 話を正確に聞く
音を正確に言う 単語音を正確に言う 2・4語文を正確に言う 話を正確に言う

<視覚性言語>(読む・書く)

音・文字 単語 文章
ひらがなを正確に読む(清音) ひらがな単語を正確に読む(清音・特殊な音節) 2、3語のひらがな文を正確に読む 3、4文からなるひらがなの文章を正確に読む
カタカナを正確に読む(清音) カタカナ単語を正確に読む(清音・特殊な音節) 2、3語のカタカナ単語まじりの文を正確に読む 3、4文のカタカナ語まじりの文章を正確に読む
漢字を正確に読む 漢字熟語を正確に読む 2、3語の漢字まじりの文を正確に読む 3、4文の漢字熟語まじりの文章を正確に読む
ひらがなを正確に書く(清音) ひらがな単語を正確に書く(清音・特殊な音節) 2、3語のひらがな文を正確に書く 3、4文からなるひらがなの文章を正確に書く
カタカナを正確に書く(清音) カタカナ単語を正確に書く(清音・特殊な音節) 2、3語のカタカナ単語まじりの文を正確に書く 3、4文のカタカナ単語まじりの文章を正確に書く
漢字を正確に書く 漢字熟語を正確に書く 2、3語の漢字まじりの文を正確に書く 3、4文の漢字熟語まじりの文章を正確に書く
りんこ
継次処理タイプか同時処理タイプかによって、これらをどのような順序で学ぶのが有効かが変わってきます。

継次処理に強い子の国語指導の基本

継次処理に強い子は「聞く・話す」という音声言語を用いて言語習得をうながすのが有効。

音声言語を用いて言語を習得するのは通常の発達と同じ順序なので、言語習得の初期の頃には特に問題は出ないかもしれませんが、文字を書くところで大きなつまずきを示しやすくなります。

継次処理に強い子の国語学習では以下がポイントとなります。

継次処理に強い子の指導の基本

①段階的に
②部分から全体へ
③順序性を重視
④聴覚的・言語的手がかりを使用
⑤時間的・分析的な方法を基本に

①段階的に

継次処理タイプの子には、手順をスモールステップ化し、順序立てて取り組ませる。
(ひらがなや漢字を書く場合、筆順の番号にしたがって段階的に書かせる等)

②部分から全体へ

継次処理タイプの子には、始めから全部を提示せず、まずは部分的に、徐々に全体へと広げていく教え方が有効。

国語の場合、いくつかの文字が集まって1つの単語を構成し、またいくつかの単語が連なって文を構成し、いくつかの文が連なって文章を構成しているため、「文字→単語→文→文章」の方向性で学習することが有効になります。

<聞く>
音を正確に聞く→単語音を正確に聞く→2,3語文を正確に聞く→話(文章)を正確に聞く
<話す>
音を正確に言う→単語音を正確に言う→2,3語文を正確に言う→話(文章)を正確に言う
<読む>
文字を正確に読む→単語を正確に読む→2,3語文を正確に読む→文章を正確に読む
<書く>
文字を正確に書く→単語を正確に書く→2,3語文を正確に書く→文章を正確に書く

③順序性を重視

継次処理タイプの子には、1,2,3・・・と番号順に、また左から右へ、上から下へ・・・など順序性を踏まえる教え方が有効になります。
(画数が少なく単純な漢字から、画数が多く複雑な漢字へと指導する等)

④聴覚的・言語的手がかりを使用

継次処理タイプの子は、聴覚性言語が発達し習得も速いため、聞かせる・読ませる・言わせる(言語化)を重視する教え方が有効。
(文字書きの学習では、「文字かき歌」を活用して文字の形の違いを理解させる等)

⑤時間的・分析的な方法を基本に

継次処理タイプの子には、時間的な手がかりや分析的な手法を用いるのが有効。

時間的経過に従ってステップをいくつかの段階に分け、順を追って説明します。(「まず・・・」「次に・・・」「最後に・・・」など)

同時処理に強い子の国語の指導の基本

同時処理が強く継次処理が弱い子は、「聞く・話す」が苦手なために、発音が正確にできない、話せる語彙が増えないなど初期の言語発達が遅れていることが多くなります。

しかし彼らにとっては音声言語より文字言語のほうが理解しやすく、就学後に文字指導が行われるようになってから言語的な知識が蓄えられる場合が多くなります。

このような子どもには、就学前から文字の学習を行い、文字言語を早く使用できるようにすることも有効になります。

同時処理に強い子の指導の基本

①全体をふまえる
②全体から部分へ
③関連性を重視
④視覚的・運動的手がかりを使用
⑤空間的・統合的な関係を基本に

①全体をふまえる

物事の全体像をイメージし、情報と情報の関係を把握していくことが得意な同時処理タイプの子には、まずは目的や結論を最初に提示し、全体のイメージを持たせるのが有効。

おおまかにどんなことをやるのかを最初に示し、理解させたうえで教えます。(「今日は〇〇について学習します。」等)

②全体から部分へ

上で述べたように、同時処理タイプの子には、一度で全体がわかるように提示し、全体を捉えさせてから部分に着目させる方法が有効。

国語では、「文章→文→単語→文字」という方向性になります。

<読む>
文章を正確に読む→2,3語文を正確に読む→単語音を正確に読む→文字を正確に読む
<書く>
文章を正確に書く→2,3語文を正確に書く→単語音を正確に書く→文字を正確に書く
<聞く>
話(文章)を正確に聞く→2,3語文を正確に聞く→単語音を正確に聞く→音を正確に聞く
<話す>
話(文章)を正確に言う→2,3語文を正確に言う→単語音を正確に言う→音を正確に言う

③関連性を重視

同時処理タイプの子には、提示された複数の学習内容の関連性に着目させる方法が有効。

何らかの規則にもとづいてグループにまとめるなど、複数の情報を関連づけて学習させます。
(漢字の学習では、部首や漢字が表している意味、似ている漢字の関連性などを重視する等)

④視覚的・運動的手がかりを使用

同時処理タイプの子には、見せること(視覚化)や動作すること(動作化)を重視する教え方が有効。

⑤空間的・統合的な関係を基本に

同時処理タイプの子には、絵や図で示すなど、空間や位置関係で捉えさせる教え方が有効。

まとめ

「継次処理スタイル」の特徴

・情報を一つ一つ順番に理解し、それらをつないで全体を捉えることが得意(部分→全体へ

聴覚からの情報収集・理解が得意

「同時処理スタイル」の特徴

・物事の全体像をイメージし、情報と情報の関係を把握していくことが得意(全体→部分へ

視覚からの情報収集・理解が得意

継次処理に強い子の国語指導の基本

①段階的に
②部分から全体へ(文字→単語→文→文章)
③順序性を重視
④聴覚的・言語的手がかりを使用
⑤時間的・分析的な方法を基本に

同時処理に強い子の国語指導の基本

①全体をふまえる
②全体から部分へ(文章→文→単語→文字)
③関連性を重視
④視覚的・運動的手がかりを使用
⑤空間的・統合的な関係を基本に